「のれん代」とは

 

最近では企業の買収や合併がごく日常的に起こるようになり、「のれん代」という言葉をよく聞くようになりました。「のれん代」とは、企業の資産の中の営業権のことです。

「のれん代」は、企業の合併や買収、営業の譲り受けの時に限って資産に計上されます。「のれん代」に限らず無形固定資産というものは、企業にとってビジネスの上では不可欠のものですが、会計上の取り扱いがむずかしくしばしば議論の対象となっています。

中でも「のれん代」は、その定義からしてあいまいな部分が多く、金銭的に評価することも困難とされています。のれん代の評価をめぐって企業の業績が大きく変わってしまうこともよく起こります。

ここではベンツ車の例を考えてみます。ベンツ製の車が、まったく同じコストと性能を持つA社の自動車よりも市場での価格が高い場合、そのベンツ車には「超過収益力がある」ことになります。世の中の人々は高い金額を払ってでもベンツ車を買おうとしており、そこには高い金額に見合うだけの理由があるはずです。

ベンツ車に超過収益力をもたらしている理由はどこにあるのでしょうか。一概には言えませんが、次のような理由が考えられえます。

(1) ブランド名が広く知れわたり、名前を聞いただけで製品価値がわかること

(2) 経営の組織(従業員や経営者)が優れていること

(3) 製造技術やサービスが優れていること

(4) 製造に関する機密が保たれていること(容易に真似されないこと)

(5) 営業所の立地がよいこと、どこにでもあること

(6) 取引先と特殊な関係を結んでいること

 

この中のいくつかの理由はベンツが創業当時から持っていたものでしょうが、別のいくつかの理由はベンツが営々と時間をかけて築きあげてきたものです。ベンツ車の持つ性能、組織、サービスなどの長所が年月をかけて、他社にない価値を作り上げてきたのです。これこそが超過収益力の源泉であり、ベンツのブランド価値です。

ベンツの持つ企業価値に惚れ込んだ別の自動車メーカー(B社)が、ベンツを丸ごと買収しようと考えたとします。ベンツもこの合併話に乗り気で、両社はそれぞれの株主総会での了承を得て合併合意書に調印しました。あとは両社の合併を会計処理上で済ませるだけです。

「のれん」の会計処理

ここで合併の会計処理を行うに当たって、「持分プーリング法」と「パーチェス法」のふたつの処理が登場します。

「持分プーリング法」とは、合併の会計処理にあたって、合併されるベンツの資産・負債を元の帳簿価額のままB社が受け入れる方法です。これに対して「パーチェス法」は、ベンツの持つ資産・負債を公正な価値(=時価)で評価してB社が受け入れる方法です。

「持分プーリング法」と「パーチェス法」というふたつの会計処理の違いは、

<1>持分プーリング法はベンツの持つ資産・負債を帳簿価格(簿価)で引き継ぎ、パーチェス法では時価で引き継ぐ点で大きく異なります。

そのために「のれん代」についても、

<2>持分プーリング法では「のれん代」が計上されませんが、パーチェス法では「のれん代」が計上されるという違いが生じてきます。

米国の会計基準や国際会計基準では、持分プーリング法を廃止してパーチェス法を用いる傾向が強くなっており、国内基準との差異が認められます。

国内基準では、「のれん代」の償却について、資産として計上された「のれん代」は、一定の期間で費用として償却しなければなりません。商法では5年以内、企業会計原則では20年以内の「一定の期間」と規定されています。

実際に適用される場合は、企業の実態に合わせて判断され、最近は楽天のように1年間で一括償却する会社も増えています。

担当:  R

投稿者 esstaff